勝負はこれから

中学受験修了テスト

問 次の文章を読んで、自分が考えたことを書きましょう。

「負けて勝つ」という言葉があります。また、「勝って負ける」という言葉もあります。あれ?「負けは負け」で、「勝ちは勝ち」ではないかと思うかもしれませんね。

 では、「負けた後、次は勝つ」と考えてみましょう。同じように、「勝ったけど、その後では負ける」と、勝ち・負けの間に時間の経過をおいて考えてみましょう。その瞬間は勝ったのだけど、その後のステージでは負けてしまうことはよくありますよね。反対に、ある勝負では負けてしまったけれども、次のステージではみごとに成功裏に終えることも経験したことがあると思います。

 中学受験は、生まれて初めて経験した大勝負でした。この勝負はなかなか厳しい勝負で、普通の勝負ならどっちかが勝つという勝率5割の勝負なのですが、中学入試で第一志望校に合格できる人は3、4人に1人程度しかいない難しい勝負でした。小学4年から受験に向けた勉強を始めて3年間、長い長い受験勉強に耐えてやっと試合の日にこぎつけたけれども、勝負はあっという間についてしまいました。あまりのあっけなさに、まだその結果を受け止められないでいるかもしれません。なにしろ準備に3年間もかかったのに試験時間はたったの3時間、その日が終わる前にもうその結果が出てしまったのですから。

合格と不合格は、天国と地獄ほどの違いがあるように思われたことでしょう。合格した人は、まるで天下をとったかのような気分になり、一方、不合格だった人は自分のすべてが否定されたかのような錯覚に陥ることでしょう。まさに、「負けは負け」、「勝ちは勝ち」ではないか。そういう気持ちになることは、試験の結果を知った直後の心理としてはやむを得ないかもしれません。

 しかし、もう少し冷静になって考えてみましょう。君たちの勝負はここで終わりなのでしょうか。生まれてたったの12年足らずの、しかもたったの4科目の紙のテストの結果で決まるものなのでしょうか。人の人生は80年以上もあります。君の人生はまだ始まったばかりです。これから先の方がはるかに長いのです。これから何回も何回も、いろいろな試験があるでしょう。試験だけでなく職業選びも、結婚もさまざまな人間関係などなど人生の岐路になる場面はいっぱいあります。

 そういう長い目で、これから起きるさまざまな場面を頭の中に描いた上で、ここで少し考えてもらいましょう。


問題

 「勝って、負ける」人とはどういう人でしょうか。

 「負けて、勝つ」という人はどういう人でしょうか。

「勝って、負ける」という人は、合格した後、自分を過信して油断し(なま)けてダメになってしまう人です。日本で最難関とされる開成中学に合格した人の1割が、毎年こうなってしまうと開成中学の先生が嘆いていました。

「勝って、勝つ」人はいないのですか、という質問が来そうですね。そういう人とは、どういう人でしょうか。合格したことで自分に自信をつけて、「よし、オレはできる男だ。次はもっと高い目標を立てて、それを突破するぞ」と考える人です。こういうタイプの人は、次も勝ちます。一度の成功で有頂天になることなく、合格を土台にして早速次の目標に向けて努力を続けるタイプですね。こういう姿勢を守り続ける限り、はたして次も次も次も連戦連勝・・・となるのでしょうか。

人間万事塞翁が馬

 残念ながら、そうはならないのです。人生の中ではいろいろな試練がやってきます。それはある日、突然来るものもあります。事前にわかっていることなら万全の準備をして備えることもできるでしょう。今回の入試のように、あらかじめ試験の日も出る内容もほとんど想定できる範囲のものならよし、でもそうでない試練があるのです。

 東大の医学部と、日大の医学部の両方で教えていたという教授が言っていたことなのですが、2つの大学の学生には大した学力差はなかったそうです。ただ、決定的に違っていたのは自分を管理する能力だそうです。東大の学生は、予告したテストには万全の準備をして完璧な答案を書くそうです。が、一方の日大の学生は試験の直前になるまで遊びほうけて準備をしないので、ひどい点を取る学生がいっぱい出るそうです。

 ところが、事前に予告しないテストとなると両者にはほとんど差がなく、かえってその場しのぎや臨機応変な対応に慣れている日大の学生の方が優秀な面もあったとか。つまり、学力の差ではなく、自己管理能力の差でペーパーテストの成績は決まるのだと教授は分析していました。

 また、人生の試練というのは、今回のような紙の上での学力テストだけではありません。これからのAI時代の人間に求められるのは感じる力や新しいものを創造する力、人の心を動かし人間関係を構築する力、忍耐力などなど、単なる学力テストでは測れない力が山のようにあります。

 こんな人がいます。生まれつき才能豊かで、家庭環境もよく、学校でも塾でも成績は抜群、模擬試験でも必ず全国の上位にいて、中学入試でみごと第一志望校に合格。その後も学校の成績も優秀で、憧れの東大に合格。大学院に進み、将来を期待される研究者となったものの行き詰まり、後輩に追い越されて自殺・・・。実際、東大のエリート研究者のうち、毎年何人もの人が自殺しています。

 連戦連勝することほど怖いことはありません。人間は弱いものです。そして、愚かなものです。勝ち続けるとどうしてもプライドが先行してしまいます。そうすると、負けることを極端に恐れることになります。負けたくない一心で無理をして健康を害する人が出てきます。負けたくない気持ちがつい不正を働くことになって、一生を棒にふってしまうような犯罪を犯す人もいます。たまたまオセロゲームで、〇〇〇〇〇〇と白が続いていたのに、たった一つ●になった途端にゲームオーバー、今までの〇が全部●に変わってしまうような悲劇が起きています。

生まれてから死ぬまで一度も負けることがないという人生はありえません。必ず負けることがあります。だとすれば、早いうちに負けを経験して、変なプライドから解放され、負けから立ち直る術を身につけることが何より大切になります。

 では、中学入試では勝つより負ける方が良かったのでしょうか。答えはそう簡単ではありません。「負けて、勝つ」は簡単なことではないのです。中学受験で不合格になった人のほとんどは、「負けて、勝つ」ではなく、「負けて、負ける」になってしまいます。つまり、負けたことによって、「模擬試験でもダメだったけど、本試験でもやっぱりダメだった。頑張ってもほかの子に勝てなかったし、運もよくないみたいだし。これから何をやってもどうせダメなんだろうなぁ。もう何もしたくないよ。もともと中学受験なんてしなきぁよかったんだ、そうすればこんな惨めな思いもしなくてすんだのに・・・」―-これが「負けて負ける」の典型的なパターンです。

 負けた人が次に勝つのは、勝った人が次も勝つより何倍も難しいのです。「負けて、勝つ」ためには、3つの条件がクリアーされなければなりません。それは何でしょう。 

 まず、第一に必要な条件は、負けたことが分かった瞬間に、「クヤシイー!」と思えることです。最悪なのは、落ちたことを人のせいにすることです。「もっとこうしてくれれば良かったのに」とか「もっとこうだったらこんなことにはならなかったのに」と言い訳やら責任転嫁をすることです。確かに不合格になった原因は1つや2つではないでしょう。挙げればきりがないくらいいっぱいあるでしょう。それを言いたい気持ちも分からないわけではありませんが、それをいくらわめきちらしたところで不合格という結果は変わらないどころか、また次も敗北することが確定するだけです。

 「クヤシー!」と思えること自体、或ることがなされていないと出てこない感情です。それは、「クヤシー!」と思えるくらい頑張ったこと、もう少しで合格できるくらいいい線まで来ていたことです。それがなければ「クヤシー」という感情さえ起きないのです。

 「負けて、勝つ」ための第二の条件は、不合格になった原因を正確に分析することです。もっと一つ一つのことを丸暗記でなく納得がいくまでしっかり理解していくような勉強の仕方をすればよかった。成績の悪い模試をすぐに捨てるのではなく、できなかった問題をすぐに復習していけば良かった。ケアレスミスと毎度毎度簡単に片づけるのではなく、ミスを繰り返さないためにはどういう方法でチェックするかを工夫すれば良かった、など。それらのうちのどれだけを挙げられたかは確実に得点力を増す最大の要因となるだけでなく、試験を超えて一生の財産となるのです。

 三番目は、次の目標を設定することです。その目標を達成するための具体的な計画を立てることです。具体的というのは、するべき内容を数値入りにし、いつまでに何をするのかその方法と期限を設定することです。さらに、それが計画通りにいかない時は次善の策としてどう修正するかを考えておくことです。そうすれば100パーセント、次は必ず勝てます。

 今、負けた後はどうするかを考えてみました。もし勝っていたらどうでしょう。このような反省をするでしょうか。ただ勝った、勝ったといって有頂天になったのではないでしょうか。何が勝因で、あともう少しこうすればさらに楽勝だったなどと反省することはないでしょう。そこにすでに、「勝って、負ける」と「負けて、勝つ」の逆転が起きていると言えないでしょうか。

 誰も創れなかった青色LEDの発明でノーベル賞を受賞した中村教授の持論は、「負ければ負けるほど、人は強くなる」です。私が、「勝つことによって自信をつけて人は強くなるのでは?」と質問したら、即座に「勝つとどうしても自分に甘くなる。勝って得られるものは、歯の浮いたようなお褒めの言葉だけ。次にチャレンジするテーマもなくなる」と言われました。そして、「人生の早い時期に成功するよりも、ずうっと負け続けて、後の方で勝つ方が大きな成功を手にすることができる」とも。

 さて、君が受験を通して得たものは何ですか。受験の結果は、「勝ち」の場合も「負け」の場合もあるでしょう。しかし、今、見てきたように次のステージを視野に置いた場合、受験の成果は「合格」か「不合格」かで決まるものではないことが分かりました。今、君の頭に浮かんだことを書き留めておきましょう。

 最後にもう一つ大切なこと。君はこれまでの受験期間を通して、問題が解けた解けなかったとか、模試の成績がどうだったとか、志望校に合格できるだろうかとか、そんなことばかりが頭を支配していて、とても大切なことが考えられなくなっていませんでしたか。それは、いったい何だと思いますか。


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